盗撮未遂罪はある?
- 2020年5月21日
- コラム
盗撮未遂罪はある?
盗撮未遂罪はあるのかどうかについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
【事例】
Aさんは、盗撮について興味を持っており、1年ほど前から、通勤に使用している横浜市港南区内の駅やその路線で女性の姿やスカートの中をスマートフォンを使って盗撮していました。
その日もAさんは、横浜市港南区を通る路線の電車内で、向かいの席でうたた寝をしていた女子高生Vさんのスカートの中を盗撮しようと、Vさんのスカートにカメラ機能を起動したスマートフォンを向けました。
しかし、見回りをしていた駅員がその様子を発見し、神奈川県港南警察署に通報しました。
Aさんは、神奈川県迷惑防止条例違反事件の被疑者として神奈川県港南警察署で話を聞かれることになりました。
Aさんは、「盗撮をしようとしたことは事実だが、まだ盗撮自体はできていない。自分は盗撮未遂罪とされているのか」と思い、ひとまず刑事事件に強い弁護士に話を聞いてみることにしました。
(※この事例はフィクションです。)
【盗撮未遂罪はある?】
未遂罪とは、犯罪の実行に着手はしたものの、なんらかの事情によってその犯罪を完遂しなかった場合に成立する犯罪です。
例えば、人から金を騙し取ろうとして人に嘘をついたものの、相手が途中で嘘に気付いて金を騙し取ることはできなかったというような場合には、詐欺未遂罪が成立する可能性が出てきます。
これは、詐欺罪の実行の着手はしていたものの、「金を騙し取る」というところまではいかなかった=詐欺罪を完遂するには至らなかったということから、詐欺未遂罪の成立が考えられるのです。
この未遂罪について、全ての犯罪について未遂罪があるかというと、そうではありません。
実は、未遂罪とは、特別に「未遂罪も処罰する」という規定がなければ処罰されません。
例えば、公然わいせつ罪には未遂罪の規定はありません。
ですから、公然わいせつ罪をしようと思ったができなかった、という場合に公然わいせつ未遂罪が成立して処罰される、ということはありません。
では、今回のAさんのような、盗撮行為についてはどうでしょうか。
電車内や駅構内での盗撮行為は、各都道府県の定めている迷惑防止条例(神奈川県の場合「神奈川県迷惑行為防止条例」)で規制されていることが多いです。
神奈川県も例に漏れず、以下のような条文によって盗撮行為が禁止されています。
神奈川県迷惑防止条例第3条
第1項 何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗つている人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
同2号 人の下着若しくは身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。以下「下着等」という。)を見、又は人の下着等を見、若しくはその映像を記録する目的で写真機その他これに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置し、若しくは人に向けること。
同3号 前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
第2項 何人も、人を著しく羞恥させ、若しくは人に不安を覚えさせるような方法で住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服等の全部若しくは一部を着けないでいるような場所にいる人の姿態を見、又は、正当な理由がないのに、衣服等の全部若しくは一部を着けないで当該場所にいる人の姿態を見、若しくはその映像を記録する目的で、写真機等を設置し、若しくは人に向けてはならない。
この条文を見ると、神奈川県迷惑防止条例では、盗撮について未遂罪の規定が特別に定められているわけではないようです。
となると、いわゆる「盗撮未遂罪」という形では処罰されないということになります。
しかし、条文を確認してみると、神奈川県迷惑防止条例では、盗撮行為そのものだけでなく、「人の下着等を見、若しくはその映像を記録する目的で写真機その他これに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置し、若しくは人に向けること」も禁止していることが分かります。
つまり、「盗撮未遂罪」という形での処罰はなくとも、盗撮しようとしてカメラやその機能のあるものを人に向けた時点で神奈川県迷惑防止条例違反となるのです。
ですから、今回のAさんも、盗撮自体ができていなくとも、この盗撮をしようとカメラ機能を起動したスマートフォンをVさんに向けたことによって神奈川県迷惑防止条例違反となると考えられるのです。
盗撮事件は、各都道府県によって適用される条例が異なることから、自分の行為のどの部分がどの条例に違反しているのか、それがどの程度の刑罰なのか分かりにくいこともあります。
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