預金通帳を渡して刑事事件②詐欺罪
- 2020年5月24日
- コラム
預金通帳を渡して刑事事件②詐欺罪
預金通帳を渡して刑事事件となった事例で、特に詐欺罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
【事例】
神奈川県横須賀市に住むAさんは、SNSで「新しく作った通帳やキャッシュカードを送るだけで高収入」といった投稿を見つけました。
そんなに簡単なことでお金がもらえるなら安いものだと思ったAさんは、近所にある銀行Vで口座を開設すると、SNSのメッセージ機能を利用して指示された通り、預金通帳やキャッシュカードを郵送し、報酬として10万円受け取りました。
するとしばらくしてから、Aさんの自宅に神奈川県田浦警察署の警察官がやって来て、Aさんは犯収法違反と詐欺罪の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんの家族は、Aさんの逮捕の知らせを聞いて、弁護士に接見を依頼しました。
Aさんは、接見に訪れた弁護士に、預金通帳を渡しただけで犯罪になるのか相談しました。
(※この事例はフィクションです。)
【預金通帳等の譲渡と詐欺罪】
今回の事例のAさんは、前回取り上げた犯収法違反だけでなく、詐欺罪の容疑でも逮捕されています。
実はAさんのように、預金通帳等を他人に渡してしまった刑事事件では、態様によっては犯収法違反だけではなく詐欺罪の成立も考えられるのです。
今回の記事ではその詐欺罪について詳しく解説していきます。
詐欺罪は、刑法に定められている犯罪の1つです。
刑法第246条第1項
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
今回の事例のAさんのようなケースでは、まず銀行に対する詐欺罪が疑われます。というのも、今回Aさんは、預金通帳等を他人に渡すために銀行Vで口座を開設しているからです。
通常、銀行で口座を開設する際には、本人が使う口座なのかを確認された上で、預金通帳等を他人に渡してはいけないという旨を確認されます。
そして、銀行との間で他人への譲渡を禁止するという内容の約款のもと、口座が開設されることになるのです。
Aさんのように、他人へ預金通帳等を渡すことを目的として口座を開設するということは、その目的を偽って口座を開設するということになるのです。
ここで、詐欺罪の「人を欺いて」という行為は、財物の交付の判断に重要な事項を偽ることであると解されています。
これを今回の事例の状況に当てはめてみると、銀行はその口座が口座開設する本人が使用するものであり、預金通帳等も他人に渡さないという約束のもとで口座を開設し、預金通帳等を渡しているということになりますから、もしも他人へ預金通帳等を渡す目的で口座を開設しようとしているのだと知っていれば、口座を開設して預金通帳等を渡すことはしていなかったでしょう。
そうなると、他人へ預金通帳を渡す目的で口座開設をするということは、預金通帳等=「財物」を引き渡すかどうかに際して重要な事項であるといえ、それを偽ったAさんの行為は「人を欺いて」いると考えられるのです。
以上のことから、今回のAさんには銀行に対する詐欺罪が成立すると考えられるのです(なお、もともと自分が使うために開設していた口座について預金通帳等を他人に渡したという場合には、口座開設の時点で銀行に偽っていることはないことから、前回の記事で取り上げた犯収法違反のみが成立することになります。)。
加えて、こうした預金通帳等を他人に渡してしまったという事件では、譲渡先で預金通帳等が特殊詐欺事件などに利用されており、その特殊詐欺事件についても関係しているのではないかと容疑をかけられることもあります。
もちろん、その特殊詐欺について事前に知っていたような場合や犯人グループの一員として動いていたというような場合には、その特殊詐欺についても詐欺罪が成立する可能性が出てくることになります。
もしも関わりがなかったとしても、捜査機関から容疑をかけられてしまう可能性は否定できません。
やってしまったこと以上の容疑を避けるためにも、こうした刑事事件の当事者となってしまったら弁護士のサポートを受けることが望ましいでしょう。
預金通帳等を渡しただけでは大したことにならないのではないかと考えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、前回から見てきたように、預金通帳等を他人に渡すことによって犯収法違反や詐欺罪など、決して軽くはない犯罪が成立する可能性が出てきます。
注意することはもちろんですが、もしもこうした刑事事件を起こしてしまったら、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部の弁護士までご相談ください。
刑事事件専門の弁護士が、適切な弁護活動をご提案し、不安解消のためのアドバイスを行います。