SNS上の脅迫・威力業務妨害事件
- 2020年7月17日
- コラム
SNS上の脅迫・威力業務妨害事件
SNS上の脅迫・威力業務妨害事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
~事例~
Aさんは、神奈川県川崎市麻生区で活動しているタレントのVさんのファンでした。
しかし、ここ最近のVさんの活動がAさんの好みに合わなかったことから腹を立て、VさんのSNSのアカウントに対し、「こんな番組に出続けるならいっそ殺してやる」「こういった仕事を辞めないと関わっている事務所にも押しかけて事務所の人間も一緒に殺す」などといったコメントを送りました。
VさんやVさんの所属する事務所は、悪質なコメントが送られてきていることから、事務所の警備を強化するなどの対応に追われました。
そして、このコメントを見た人が神奈川県麻生警察署に通報し、神奈川県麻生警察署が捜査を開始。
Aさんは、脅迫罪と威力業務妨害罪の容疑で神奈川県麻生警察署に逮捕されてしまいました。
(※この事例はフィクションです。)
・SNS上の脅迫・威力業務妨害事件
今回のAさんの事例のように、SNS上での行動が刑事事件に発展してしまうケースも少なくありません。
Aさんは、刑法の脅迫罪と威力業務妨害罪に問われて逮捕されているようです。
刑法第222条第1項(脅迫罪)
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
刑法第234条(威力業務妨害罪)
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
※注:「前条」とは、刑法第233条「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」(偽計業務妨害罪)を指します。
まずは脅迫罪について検討してみましょう。
脅迫罪は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫」することで成立しますが、その害悪の告知の方法については限定していません。
ですから、今回のAさんの事例のように、SNSを通じて害悪の告知をした場合でも、被害者にそれが知られるやり方であれば脅迫罪の「害を加える旨を告知」していると考えられるのです。
そして、今回のAさんはVさんに対して「殺してやる」とSNSを通じて伝えていますが、「殺す」ということは脅迫罪の「生命…に対し害を加える旨」といえるでしょう。
ですから、Aさんの行為は脅迫罪に該当すると考えられます。
次に威力業務妨害罪について考えてみましょう。
威力業務妨害罪は、業務妨害行為の手段として「威力」を用いた場合に成立する犯罪です。
この「威力」とは、「犯人の威勢、人数及び四囲の情勢から見て、被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力」であるとされています(最判昭和28.1.30)。
定義としては難しい言葉になりますが、実務上、直接的・有形的に業務妨害行為を行った場合に威力業務妨害罪に該当すると判断されることが多いようです。
今回のAさんは、Vさんやその事務所の人間を殺すと脅すことで、Vさんの所属事務所に警備を強化させるなどしています。
この方法が直接的・有形的であると判断されたことで「威力」であると判断されたのでしょう。
さらに、Aさんのこの脅しによって、Vさんや所属事務所は警備を強化するなどの対応に追われ、やらなくてもよい業務をすることになっています。
つまり、これによって業務を妨げていることにつながりますから、「威力を用いて人の業務を妨害した」と判断され、威力業務妨害罪の容疑をかけられるに至ったのでしょう。
なお、威力業務妨害罪を含む業務妨害罪は、実際に業務妨害された事実がある場合だけでなく、実際には業務妨害の事実は発生しなかったが業務妨害の危険性は発生していたという場合にも成立します。
・脅迫罪と威力業務妨害罪…刑罰はどうなる?
Aさんは脅迫罪と威力業務妨害罪、2つの犯罪の容疑をかけられていますが、この2つの犯罪で有罪となった場合、どのように刑罰が下されることになるのでしょうか。
実は、刑事事件では複数の犯罪が成立したからといって単純にその犯罪分の刑罰が足されていくというわけではありません。
複数の犯罪が成立する場合、その犯罪同士の関係性によって刑罰の計算方法が異なります。
今回のAさんの事例で考えてみましょう。
Aさんは、VさんのSNSアカウントにコメントを送るという1つの行為によって脅迫罪と威力業務妨害罪が成立することになります。
このように、1つの行為が2つ以上の犯罪に触れる場合は、「観念的競合」という考え方によって刑罰が決められます。
刑法第54条第1項
1個の行為が2個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
つまり、脅迫罪と威力業務妨害罪の場合で言えば、より重い威力業務妨害罪の「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」という範囲で刑罰が決められることになります。
SNS上の脅迫事件・威力業務妨害事件では、それぞれの犯罪がどのように成立するのか、どのように刑罰が下されるのかなど検討しなければならないことも多いです。
被疑者本人が逮捕されてしまっていればその釈放を求める活動も必要でしょう。
専門知識や経験が必要になる活動が数多くあることから、こうした状況ではまずは弁護士に相談してみることをおすすめいたします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部では、刑事事件専門の弁護士が様々な刑事事件に迅速に対応しています。
まずは相談だけでも、という方も安心してご利用いただけます。
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