相手が怪我していなくても傷害罪?
- 2020年9月4日
- コラム
相手が怪我していなくても傷害罪?
相手が出血したり骨折したりといった怪我をしていないにも関わらず傷害罪に問われる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説致します。
【ケース】
神奈川県横須賀市在住のAは、横須賀市の会社に勤める会社員です。
AはXと交際を開始しましたが、Xとの性行為後数カ月が経って体調の違和感を覚えました。
そこでAは検査を行ったところ、Aは性感染症にかかっていることが分かりました。
AはXと別れた上で、自分も罹患したのだから治療する前に他の人にも移して迷惑を掛けてやろうと考え、自身が性病であることを隠して不特定多数の相手と性行為を行いました。
その後、Aが関係を持ったうちの一人であるVが体調不良を訴え、検査の結果性病に罹患したことが発覚しました。
VがAに問い詰めたところ、AはVと性行為をした当時性病に罹患していたことを告白しました。
そこでVは、横須賀市を管轄する浦賀警察署の警察官に相談をしました。
その話を聞いたAは不安になり、暴行を伴わない性病を移すという行為が傷害罪に当たるのか、刑事事件専門の弁護士に無料相談で質問しました。
≪ケースは全てフィクションです。≫
【傷害罪について】
傷害罪というと、まずは一方的に殴る蹴るの暴行を加えたり喧嘩をしたことで被害者が流血した、骨折したなどの場合が考えられます。
傷害罪の条文は以下のとおりです。
刑法204条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
ここで問題となるのは、「身体を傷害」するということです。
判例は、傷害の意義について「他人の身体に対する暴行により生活機能の毀損すなわち健康状態の不良な変更を惹起すること」と示しています。(大判明45・6・20)
また、その後の判例により「他人の身体の生理的機能を毀損する者である以上手段を問わず、暴行によらず病毒を他人に感染させる場合も含まれる。」としています。(最判昭27・6・6)
よって、傷害罪は必ずしも暴行を伴わなければならないというわけではないのです。
ケースのように、暴行を伴わずに性病を移す行為は傷害罪と認められるでしょう。
ただし、ケースのAが自身が性病の罹患者であることを知らずに性行為などをした結果、相手が感染した場合には、傷害罪は成立しません。
傷害罪が成立するためには、自身が性病である、あるいは性病かもしれないという認識と、相手に移すことについての故意または未必の故意が必要です。
一方で、暴行による傷害事件で「相手を怪我させるつもりはなかった」という主張は通用せず、暴行の故意があれば結果として相手が怪我をした場合には傷害罪が適用されます。
【怪我していなくても傷害罪と認められた事案】
上記のような性病を移すような場合の他にも、傷害罪と認められた事案がございます。
以下でその一部を列挙します。
・いわゆるPTSD
判例では、監禁・脅迫を受けた被害者が解放された後も精神的な障害を負い、心的外傷後ストレス障害(いわゆるPTSD)の診断を受けた場合について、傷害を認めたという判例がございます。
この判例は、被害に遭っている最中に不安になっているというだけではなく、「いわゆる再体験症状,回避・精神麻痺症状及び過覚醒症状といった医学的な診断基準において求められている特徴的な精神症状が継続して発現していることなどから精神疾患の一種である外傷後ストレス障害の発症が認められた」場合でした。(最判平24・7・24)
上記の事案では被害者の症状が深刻と考えられ、PTSDの診断を受けたという事件で必ずしも傷害罪が認定されるとは限りません。
・睡眠薬を投与
相手の同意なしに睡眠導入剤を摂取させて被害者が意識障害と筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせた事件で、裁判所は「被害者の健康状態を不良に変更し、その生活機能の障害を惹起したものであるから…傷害罪が成立する」と判断しています。(最判平24・1・30)
そのほかに、
・湖中に突き落として失神させた
・目の充血
・陰毛の引き抜き
・大音量での騒音に依る慢性頭痛症、睡眠障害
などの場合に、暴行のない傷害を認めています。
神奈川県横須賀市にて、暴行を加えていないにも関わらず傷害罪の嫌疑をかけられている、という方がおられましたら、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部に御連絡ください。
在宅事件の場合、事務所にて無料で御相談頂けます。
御予約:0120-631-881まで。