恋人の身代わり出頭
- 2020年10月25日
- コラム
恋人の身代わり出頭
いわゆるひき逃げ事件を起こした恋人の身代わりとして出頭した場合の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説致します。
【ケース】
神奈川県横浜市栄区在住のAは、横浜市栄区内の会社に勤める会社員です。
Aは恋人Xと同棲していました。
ある日、Aが自宅にいたところ青ざめたXが帰宅しました。
何があったのか聞いたところ、Xは横浜市栄区内の路上にて、横断歩道を走行していた自転車を跳ね飛ばしてしまい、気が動転して逃走したとのことでした。
いわゆるひき逃げ事件を起こしたと聞いたAは、Xにその罪を着せられないと言い、自分が運転していたとして横浜市栄区を管轄する栄警察署に身代わり出頭しました。
≪ケースは全てフィクションです。≫
【ひき逃げ事件の刑事上の問題について】
ひき逃げとは「事故についての通報等を行わず」その場から逃走する行為を指す一般的な呼び方です。
ひき逃げ事件を起こした場合、刑事上以下のような罪に当たることが考えられます。
①救護義務違反
自動車を運転する際、もちろん人身事故を起こさないようにすることが最も大事なことですが、万が一人身事故を起こしてしまった場合、運転手には被害者を救護する義務が課せられています。
ひき逃げをするということは事故の現場から逃走を図ることですので、救護する義務を果たさなかったということになります。
救護義務を怠る行為は道路交通法違反となり、刑事処罰の対象となります。
道路交通法72条1項 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。(以下略)
同法117条1項 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
なお、救護義務違反・報告義務違反は結果的に被害者が怪我をしなかった場合にも適用されます。
②過失運転致傷罪
過失運転致傷は、運転手の注意不足によって歩行者や自動車・バイク等に衝突してしまい、歩行者や衝突を受けた車両に乗車していた方が怪我をした場合に適用されます。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
【身代わり出頭について】
ケースのAの行為を見て美談だ…と思うのは早計です。
ひき逃げ事件に限らず、被疑者(容疑者)ではない者が、自身が犯人であると偽って出頭し、事件の申告をするいわゆる身代わり出頭は、犯人隠避罪という刑法犯になるのです。
犯人隠避罪の条文は以下のとおりです。
刑法130条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
ケースの場合、身代わり出頭したAに対し、犯人隠避罪が適用されることになります。
当然、事件が発覚すれば真犯人であるX自身も先述の刑事責任を問われることとなります。
更に、犯人隠避罪を犯すことで、証拠の隠滅や逃亡の恐れがあると評価され、身柄拘束のリスクが高まり、釈放・保釈を求める際にも不利益な事情になることは間違いありません。
よって、身代わり出頭は絶対に行ってはいけません。
神奈川県横浜市栄区にて、恋人がひき逃げ事件などの刑事事件を起こしてしまい身代わり出頭をしてしまったという方が御家族におられましたら、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部に御連絡ください。