妊娠中の女性に暴行で中絶
- 2020年12月11日
- その他の刑法犯事件
妊娠中の女性に暴行で中絶
妊娠中の女性に対して暴行するなどして中絶させた場合の罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説致します。
【ケース】
神奈川県横浜市栄区在住のAは、横浜市栄区内の会社に勤める会社員です。
Aには交際している女性Xがいて、Xとは横浜市栄区内のアパートで一緒に生活していました。
ある日を境にXの体調に変化が生じたため、念のためと思い妊娠検査薬を使用したところ、Xが妊娠していることが発覚しました。
しかし、Xの両親は厳格で婚姻前に妊娠したことを恐れ、また、Aらに満足な収入がなかったことから出産後は生活ができなくなると考えました。
そこでAとXとは話し合いの末、AがXの腹を殴ることで胎児の生命を奪い、流産させました。
数時間後、Xの体内から胎児の遺体が出てきましたが、AとXとはそれをポリ袋に入れ、燃えるごみとして廃棄してしまいました。
ゴミを回収する回収担当者はそれを発見して横浜市栄区を管轄する栄警察署に相談し、栄警察署の警察官は捜査を開始しました。
≪ケースは全てフィクションです。≫
【暴行による中絶について】
我が国の刑法では、第29章で堕胎の罪を規定しています。
堕胎とは、「胎児の生命に対する罪」で、胎児を自然の分娩期に先立ち人為的に母体外に排出し、又はこれを母体内で殺害した場合に成立するとされています。(引用:法律学小辞典)
一般的に妊娠をした場合には最終月経から起算して280日(およそ40週)前後で分娩に至りますが、もし妊娠を望まない場合、妊娠22週未満のうちに医師による手術などの方法で妊娠を中断する必要があります。(母体保護法)
この期間を超えて中絶を行ったり、医師以外の者が中絶を行うことは、堕胎の罪で処罰される可能性があります。
・胎児の殺人罪は成立しない?
人の生命を絶つ罪としてまず真っ先に思いつくのは殺人罪ではないでしょうか。
殺人罪は、刑法199条で「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」と定められています。
ここで言う人とは自然人を指しますが、妊娠中の母体の中に生きる「胎児」は「人」ではありません。
よって、殺人罪は成立しません。
・同意のある中絶も堕胎に?
妊婦自身が「薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎した」場合は1年以下の懲役に処されます。(刑法212条)
ケースのように妊婦が同意したり嘱託(お願い)したりして堕胎をした場合、上記の堕胎罪ではなく同意堕胎罪などの罪に問われます。
堕胎の罪は副次的には母体を保護法益としていますが、主となる法益は胎児の生命です。
そのため、たとえ妊婦が中絶を依頼した、あるいは中絶に同意していた場合であっても、罪に問われるのです。
2年以下の懲役に処されるほか、その結果妊婦が怪我をしたり死亡したりした場合、3月以上5年以下の懲役に処されることになります。
・死体遺棄の罪にも問われることも?
死体遺棄罪は「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。」と規定されています。
堕胎をする以前、妊婦の胎内にいる時点では胎児という扱いになり「人」とは評価されないということは先に御説明したとおりです。
しかし、胎児が例え一部分でも母体から出た時点で「人」に当たることとなります。
死体遺棄罪が問題となった判例では、人の形態を備えた死胎であれば死体を含むとしているため、ケースのAらのように胎児の遺体を遺棄した場合には死体遺棄罪が成立する可能性があります。
堕胎の罪は罰金刑がないことから、検察官が証拠を集めることが出来て起訴された場合、必ず正式裁判になります。
神奈川県横浜市栄区にて、御自身や御家族が堕胎の罪や死体遺棄の罪等にあたる行為をしてしまった方がおられましたら、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部に御連絡ください。
在宅事件の場合、事務所にて無料で相談を受けることができます。