職務質問・所持品検査は断れる?
- 2022年7月20日
- コラム
職務質問・所持品検査は断れる?
覚醒剤を所持していた場合の罪と職務質問及び所持品検査について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説いたします。
【ケース】
神奈川県逗子市在住のAさんは、逗子市内の会社に勤める会社員です。
Aさんは友人に勧められ覚醒剤を使用してしまい、その後覚醒剤を止められない状況が続いていました。
ある日、Aさんが逗子市内の路上を車で走行していたところ、逗子市内を管轄する逗子警察署の警察官により制止を求められ、職務質問と所持品検査に応じるよう求められました。
Aさんは職務質問と所持品検査を断ろうとしましたが、警察官は「仕事ですから」とAさんを自車に乗せないようにしました。
≪ケースはすべてフィクションです。≫
【覚醒剤の所持について】
覚醒剤とはアンフェタミン(フェニルアミノプロパン)又はメタンフェタミン(フェニルメチルアミノプロパン)と呼ばれる成分を含んだ薬物です。
医療現場で使われるこれらの成分は、医師や薬剤師の厳格な管理のもと、慎重に投与されています。
当然、医療関係者や研究者以外の者が使用したり所持したりすることは禁止されていて、使い方を誤ることで死亡する例があるほか、依存性が高く心身を蝕む恐れがある極めて危険な薬物です。
今回、Aさんは覚醒剤を所持していた状態で職務質問を受けていて、もしその結果覚醒剤が見つかってしまうと、Aさんは覚醒剤所持の嫌疑で捜査を受けることになります。
条文は以下のとおりです。
覚醒剤取締法41条の2第1項 覚醒剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者は、10年以下の懲役に処する。
また、Aさんがその際に尿検査(あるいは血液検査や毛髪検査)を受け、覚醒剤を使用したことが裏付けられた場合、覚醒剤使用の罪でも捜査を受けることになります。
条文は上記のとおりです。
【職務質問について】
警察官が通行人等に声掛けする「職務質問」という手続きを見たことがある、あるいはドラマなので見たという方も多いでしょう。
職務質問は、警察官職務執行法という法律で、以下のとおり規定されています。
警察官職務執行法2条
1項 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
2項 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
3項 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
4項 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。
その他、各法律や施行規則によりルールが定められています。
条文から分かるように、具体的にどのような嫌疑(疑い)があるというわけではないものの、何らかの犯罪をしたりしようとしていると疑われる場合には、対象者を停止させて職務質問をすることができます。(1項)
また、その場所が交通の妨げになるような場合などには、別の場所に移動させることもできます。(2項)
但し、何の理由もなく逮捕したり、無理やり警察署に連れて行かれたり、強引に供述をせまることはできません。(3項)
この職務質問は犯罪予防のための行政警察活動と呼ばれ、日本国憲法や刑事訴訟法等との兼ね合いから慎重に行われています。
【所持品検査について】
また、ケースでAさんは職務質問と併せて所持品検査を求められています。
所持品検査については、明文の規定がありませんが、職務質問に付随する行政警察活動という位置づけにあります。
判例は、所持品検査について「所持人の承諾を得てその限度で行うのが原則である」が、「捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り」「所持品検査の必要性、緊急性、これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべき」としています。(最判昭和53年6月20日)
この判例から言えることは、職務質問や所持品検査は原則として任意であり、警察官から求められても拒否する権利はあります。
しかし、所持人が拒否した場合であっても、その必要性や緊急性、公共の利益などと個人の法益を検討した結果、(捜索差押許可状などの令状による)捜索に至らない限り、所持品検査が適法であると認められる場合があります。
そして、所持品検査が適法に行われたかどうかは、事件の具体的な状況がどのようなものであったか、過去の判例も併せて慎重に検討する必要があるということです。
過去には、所持品検査の適法性が争われた裁判で所持品検査の結果が違法であるとして、証拠能力はないと評価され、無罪判決を言い渡されたという事例もあります。
ただし、所持品検査が違法であっても他の証拠についての証拠能力を認め、有罪としたという事例もあります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部は、覚醒剤所持のような薬物事件を含めた刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
神奈川県逗子市にて、ご家族が覚醒剤所持の嫌疑で職務質問と所持品検査を受けたのちに逮捕され、その適法性について疑問がある場合、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部にご連絡ください。
まずは弁護士が初回接見を行い、逮捕・勾留されている方からお話を聞いたうえで、今後の見通し等についてご説明いたします。