抱きついて強制わいせつ事件?
- 2020年9月28日
- コラム
抱きついて強制わいせつ事件?
抱きついて強制わいせつ事件に発展したケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事
務所横浜支部が解説します。
【事例】
神奈川県相模原市に住んでいるAは、見知らぬ女性に痴漢をするというシチュエーションに興
奮する性癖を持っていたのですが、ついに我慢できなくなり、ある夜、神奈川県相模原市内の人
通りの少ない路上で、通行人の女性Vに強く抱きつきました。
しかしAがVに抱きついてすぐに、Vが悲鳴を上げて助けを求めたことから、その場から逃走しました。
しかし、その後、相模原市津久井警察署の捜査によってAさんの犯行が発覚し、Aさんは強制わい
せつ罪の容疑で逮捕されるに至りました。
Aさんは、「抱きついただけでも強制わいせつ罪になるのか」と家族の依頼を受けて接見にやって
きた弁護士に相談しました。
(※この事例はフィクションです。)
【抱きつくだけでも強制わいせつ罪に?】
事例でAの逮捕容疑になっている強制わいせつ罪とは、刑法に定められている犯罪の1つです。
刑法第176条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。
13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
強制わいせつ罪の条文を見ると、被害者が13歳以上の場合、「暴行又は脅迫を用いて」「わいせつな行為をした」ことで強制わいせつ罪が成立することがわかります。
そうすると、抱きついただけで強制わいせつ罪が成立するのだろうか、と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
強制わいせつ罪の成否はどのように判断されるのでしょうか。
まず、強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫」とは、被害者が抵抗することが著しく困難になる程度の強さでなければいけないとされています。
さらに、強制わいせつ罪で言われる「わいせつな行為」とは、被害者の性的羞恥心を害する行為=性的に恥ずかしいと思わせる行為のことを指すと考えられています。
つまり、簡単にいえば、強制わいせつ罪は「被害者の抵抗を押さえつけて被害者の性的に恥ずかしいと思わせるような行為をする」ことで成立する犯罪といえます。
今回のAの「抱きつく」という行為ですが、確かにコミュニケーションの一環として抱きつく、ハグをするということもあるでしょう。
ですが、それはあくまで当人同士がそういったコミュニケーションであると了解して行われるものであり、見知らぬ人に同意なく抱きつかれれば、その態様にもよりますが、性的羞恥心を害する行為となりうると考えられます。
加えて、強制わいせつ罪では、わいせつな行為を行うために用いられる「暴行」と「わいせつな行為」自体が同じものであってもよいと考えられています。
すなわち、殴る蹴るといったわかりやすい暴行を加えなくとも、胸をもむ、臀部を触るといった行為が強制わいせつ罪の「暴行」であり「わいせつな行為」でもあると考えられるのです。
「抱きつく」といった行為の場合、抱きつくことによって相手の抵抗を封じる面があるため、強制わいせつ罪の「暴行」かつ「わいせつな行為」であると考えられる可能性があります。
こういった考え方から、抱きつく行為でも強制わいせつ罪に問われる可能性はあるのです。
しかし、「抱きつく」という行為は、態様にもよりますが、キスや体の特定の部位を触るといった行為に比べると、必ずしも性的羞恥心を害することに結びつくと判断されるわけではありません。
「抱きつく」行為が強制わいせつ罪の「わいせつな行為」ではないと判断された場合には、強制わいせつ罪ではなく暴行罪(刑法第208条)に問われることになるでしょう。
実際に、抱きついて馬乗りになるという行為について、強制わいせつ罪ではなく暴行罪を認めた裁判例も存在します(大阪高判昭和29.11.30)から、抱きついて強制わいせつ罪に問われている場合には、詳細な事情を弁護士に相談し、自分の行為が強制わいせつ罪にあたるのかどうか聞いてみることが得策でしょう。
前述のように、抱きつく行為が強制わいせつ罪に問われるのかどうかは、どういった抱きつき方をしたのか、他に触った場所はないのか、といった事件当時の詳細な事情によって判断されます。
本当に強制わいせつ罪が成立するのかどうかは、刑事事件の専門家である弁護士に相談してみましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部では、強制わいせつ事件に関わるご相談も承っていますので、まずはお気軽にご相談ください。