偽造通貨行使で緊急逮捕①
- 2020年7月29日
- コラム
偽造通貨行使で緊急逮捕①
偽造通貨を行使してしまった場合の逮捕について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説致します。
【ケース】
神奈川県横浜市都筑区在住のAは、横浜市都筑区内にある会社に勤める会社員です。
Aは、ある日友人から紹介されたXと連絡を取るようになり、Xから仕事を頼まれるようになりました。
仕事が終わったのち、XはAに対して「精巧な偽札だから、使ってもバレないよ」と言って相場の10倍の金額を渡しました。
Aは不安に思い乍らも、そのお金を近所のコンビニエンスストアで利用しました。
接客を行ったコンビニエンスストアの店員は、Aからお札を受け取った時点で違和感を受け、その後すぐ透かしがないことに気が付き通報しました。
臨場した横浜市都筑区を管轄する都筑警察署の警察官は、すぐに防犯カメラを解析してAの動向を調べ、買い物の後用事を済ませて自宅に帰ろうとしていたAを見つけ、緊急逮捕しました。
逮捕の連絡を聞いたAの家族は、接見に行った弁護士に偽札を使うことで問題となる罪と、逮捕の種類について質問しました。
≪ケースは全てフィクションです。≫
【偽札を使って問題となる罪】
ケースのAは、偽造通貨(いわゆる偽札)を使用したことで、逮捕されています。
しかし、恐らく御自身がお持ちの紙幣や硬貨が本物かどうか、ということを確認する機会は皆無に等しいでしょう。
偽札と知っていて受け取った場合、使った場合、後から知ってそれでも使った場合、どのような罪に当たるのか、以下で御説明致します。
①偽造通貨等取得罪について
偽札など、正規の手続で作成されていない紙幣や硬貨のことを、偽造通貨と言います。
偽造通貨等取得罪の条文は以下のとおりです。
刑法150条 行使の目的で、偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を取得した者は、三年以下の懲役に処する。
この条文では、偽札であることを理解してい乍ら偽造通貨を受け取るなどしたことで成立します。
ケースのAは、事前にXからお金が偽造通貨であることを告げられた上で、そのお金を使用する目的で受け取っているため、偽造通貨等収得罪が適用されることになります。
なお、後述する偽造通貨行使罪にも言えることですが、刑罰を見ると無期懲役か3年以上の有期懲役のみで、罰金刑などが設定されていません。
よって、検察官の判断次第で、起訴され正式裁判になります。
比較的重い刑罰に思われますが、これは通貨偽造が「通貨発行権者の発行権を保障することにより通貨に対する社会の信用を確保しようとするもの」とされているためです。(最判昭22・12・17刑集一・九四)
つまり、資本主義社会でお金は単なる紙あるいは金属以上の価値を持っていますが、それは日本銀行あるいは造幣局が作った本物のお金であるという信用が前提で成り立っているため、偽札などが出回ることは、その制度を揺るがす行為は重大であるということです。
②偽造通貨行使罪について
①で偽造通貨を所持した、あるいは自分で通貨偽造した(刑法148条)上で、その偽造通貨を使用した場合に問題となるのは、偽造通貨行使罪です。
偽造通貨行使罪の条文(及び関連条文)は以下のとおりです。
刑法148条2項 偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。
同1項 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
ケースの場合は①に加え②にも該当します。
これについては、牽連犯に当たるため一罪として処理されます。
③取得後知情行使等罪
通貨を受け取った後、その通貨が偽造通貨であることに気が付いた場合に、それを捜査機関に申告したり銀行で交換したりせずに使用した場合、習得後知情行使等罪が適用されます。
条文は以下のとおりです。
刑法152条 貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の三倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、二千円以下にすることはできない。
これは、誰もが気を付けなければならない罪と言えるでしょう。
偽造通貨が手許に回ってきた時点で申告し交換しなければならず、それを怠って使った場合にはこの罪に問われます。
なお、これは故意での罪ですので、知らずに使ったお金が偽造通貨だった場合には、取得後知情行使等罪は適用されません。
【詐欺罪に問われる可能性も】
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【逮捕の種類】
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