「殺すつもりはなかった」でも殺人未遂罪?
- 2020年6月28日
- コラム
「殺すつもりはなかった」でも殺人未遂罪?
「殺すつもりはなかった」というケースでも殺人未遂罪になるのかということについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
~事例~
神奈川県南足柄市に住んでいるAさんは、知人のVさんと自宅で飲食している際にちょっとしたことから口喧嘩となってしまいました。
Aさんは、Vさんの発言にかっとなり、台所にあった包丁を持ち出すと、Vさんの腹部や背中を複数回刺しました。
騒ぎに気付いたAさんの家族が救急車を呼び、Vさんは病院に運ばれ一命を取り留めました。
Aさんは救急車と同時に駆け付けた神奈川県松田警察署の警察官に殺人未遂罪の容疑で逮捕されました。
Aさんは、「かっとなってしまっただけで殺そうと考えていたわけではない」と供述しているようです。
そこでAさんの家族は、弁護士に接見を依頼し、Aさんの事情や事件の見通しを聞いてみることにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・「殺すつもりはなかった」でも殺人未遂罪?
今回のAさんは、Vさんを包丁で刺したことによって殺人未遂罪の容疑で逮捕されてしまっています。
しかし、Aさんは「殺すつもりはなかった」と供述しているようです。
原則として、犯罪が成立するには「故意」が必要になります。
「故意」とは、犯罪をしている、犯罪になるという意思・認識のことを指します。
つまり、その行為が犯罪にあたる行為だと分かりながら、わざと、あえてその犯罪にあたる行為をした時に「故意」があると判断されるのです。
例えば、人の財布を盗むという行為は窃盗罪にあたる行為ですが、それを認識しながら人の財布を盗んで自分の物にしてしまえば、窃盗罪の「故意」があることになります。
対して、自分の財布と間違って人の財布を持って行ってしまった場合には、「人の財布を盗む」という窃盗罪にあたる行為の認識がないため(自分の財布を持っていっていると思っているため)、窃盗罪の「故意」がないことになります。
なお、成立に「故意」が不要とされている犯罪は、いわゆる「過失犯」という種類の犯罪で、これらは簡単に言えば不注意によってその結果を招いてしまったことに成立する犯罪です。
では、今回のAさんの事例について検討してみましょう。
今回のAさんが容疑をかけられている犯罪は殺人未遂罪です。
殺人未遂罪は、殺人罪を実行に移したものの、人を殺すには至らなかったという場合に成立する犯罪です。
殺人罪は成立に「故意」が必要とされている犯罪であるため、Aさんに殺人未遂罪が成立するには殺人罪の「故意」が必要となります。
殺人罪の「故意」は、「人を殺す」という意思や認識であり、いわゆる「殺意」があることといえるでしょう。
しかし、Aさんは先述のように「殺すつもりはなかった」と話しているようです。
殺人罪の「故意」=「殺意」がないのであれば、Aさんに殺人未遂罪は成立せず、単にVさんの身体を傷つけたという傷害罪が成立するにとどまりそうです。
しかし、ここで注意すべきなのは、殺人罪の「故意」=「殺意」があったかなかったのかということは、被疑者・被告人の証言だけで判断されるものではないということです。
例えば、凶器を使用しているのかどうか、使用しているのであればどのような凶器を使用しているのか、被害者の身体のどこをどのように害しているのか、といった事情も考慮されて「殺意」の有無が判断されます。
というのも、一般的に見てその行為が人を死なせる危険性が非常に高い行為であり、それを認識しながら行っていたのであれば、「相手が死ぬかもしれないと認識しながらあえてその行為をしていた」「相手が死ぬ可能性を分かっていながらそれでもよいとして行為をしていた」=殺人罪の「故意」があった、と考えられるためです。
今回のAさんの事例について当てはめてみましょう。
Aさんは、Vさんの腹部や背中を包丁で複数回刺しています。
腹部や背中は人体の中心部であり、そこに攻撃を受ければ致命傷となる可能性も高い場所です。
そこに対してAさんは、包丁という刃物、殺傷能力の高い凶器で複数回攻撃しています。
こういったことから、AさんはVさんを死なせてしまう危険性の高い行為をしていたことになり、この行為を認識していたとすれば、「人を死なせる危険性の高い行為をあえて行った」と判断され、殺人罪の「故意」があると判断される可能性もあると考えられます。
ですから、Aさんが「殺すつもりはなかった」と言っても、それが必ずそのまま認められるとは限らないのです。
「故意」の問題は内心の問題であることもあり、当時の状況や証拠を突き合わせながら検討しなければなりません。
全くの冤罪をかけられてしまうことも考えられますし、そうでなくとも今回のAさんのように殺人未遂罪ともなれば非常に重い犯罪ですから、専門家のサポートを受けることが重要となってきます。
事件の見通しや容疑をかけられている犯罪の構成を理解しておくことも、刑事事件に対応していくには必要なことです。
弁護士に相談し、詳しく解説してもらいましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部では、刑事事件専門の弁護士が、殺人未遂事件などをはじめとする暴力事件にも対応しています。
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