性感染症を移して傷害罪に?
- 2020年7月18日
- コラム
性感染症を移して傷害罪に?
性感染症を移して傷害事件になる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説致します。
【ケース】
神奈川県相模原市中央区に住むAは、相模原市中央区にある会社に勤める会社員です。
Aは不特定多数の者と性行為をしてしまい、後日体調が優れませんでした。
そのため血液検査を受けたところ、HIVに感染していることが分かりました。
その後Aはインターネットや本を通じて、自身の病気についての理解を深めていました。
それから数年後、Aには交際相手Vができました。
交際していく中で、AとVとは肉体的な関係にも発展していきましたが、その際AはVに対して自分かエイズに罹患しているということをカミングアウトすることなく、また、避妊具を付けることもなく、性行為を行うようになりました。
結婚を目前に控えていたAは、自ら自身がエイズに罹患しているということをVに伝えました。
驚いたVは病院に行き検査をしたところ、VからもHIVが認められました。
Vの母親はエイズに罹患しておらず、Vが怪我などで輸血をした経験もないことから、Vは相模原市中央区を管轄する相模原警察署に傷害罪での被害届を提出しました。
≪ケースは全てフィクションです。≫
【傷害罪について】
まずは傷害罪の条文をご覧ください。
刑法208条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
傷害罪の条文はシンプルで、その定義は単に「人の身体を傷害した者」とだけ書かれています。
それゆえ、その行為が傷害罪にあたるのか否かについては、判例なども踏まえ乍ら慎重に検討する必要があります。
通説・判例は、傷害の定義を「人の生活機能を傷害すること即ち人の健康状態を不良に変更する場合」としています。(生理的機能障害説)
また、実際には判例はより傷害の範囲をより広くとらえているため、例えば、女性の頭皮の根元から髪の毛を無造作に切った事案や、睡眠薬などを飲ませて眠らせたという事案についても、傷害罪の適用を認めています。
【傷害罪での「故意」について】
ケースについて考えると、Aは殴る蹴るといった暴行を加えているわけではありません。
しかし、Vの母親はHIVに感染しておらず、VはA以外の人と性交渉をしておらず、輸血などもしていないため、Aとの性行為時にHIVが移ったと考えられるでしょう。
この場合に、傷害罪は適用されるのでしょうか。
まず、我が国の刑法では故意犯処罰の原則が採用されていますので、故意なく事件を起こした場合には特別の規定(過失犯処罰規定があるばあいなど)がなければ処罰されないという原則があります。
その点、AはVに対して「VをHIVに感染させてやれ」と思っていたわけではないため、「確定的故意」があったとは言えません。
しかし、我が国に於て、性器クラミジアや性器ヘルペス、コンジローマ、梅毒、淋病、HIVなどの性感染症に罹患している方が、避妊具を用いずに性行為をしてしまった場合にその疾患を移してしまう恐れがあるということは既に周知の事実かと思います。
そしてAはHIVの検査により自身が罹患していてエイズになっていることを承知しています。
それにもかかわらず、Vと避妊具をつけずに性行為をしていることから、未必の故意があると考えられます。
未必の故意とは、直接犯罪行為を行う意思があるわけではないものの、結果的に犯罪になるかもしれないと認識してい乍ら行為に及ぶことを指します。
未必の故意も故意のひとつですので、未必の故意が認められれば傷害罪が適用される可能性があります。
ただし、自身がエイズにかかっていることを知らずに性行為をした場合には、故意がないとして傷害罪は成立しません。(過失傷害罪が適用される可能性はありますが、過失があるとは認められないでしょう。)
また、傷害罪には未遂犯処罰規定がないので、エイズに罹患している方が性行為をしても結果的に相手にHIVを移さなかった場合には、処罰はできないと考えられます。(民事の問題は生じる可能性があります。)
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部は、刑事事件・少年事件専門の弁護士事務所です。
神奈川県相模原市中央区にて、パートナーにHIVなどのいわゆる性感染症を移してしまい傷害罪に問われる可能性がある方がおられましたら、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部に御連絡ください。