預金通帳を渡して刑事事件①犯収法違反
- 2020年5月23日
- コラム
預金通帳を渡して刑事事件①犯収法違反
預金通帳を渡して刑事事件となった事例で、特に犯収法違反について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
【事例】
神奈川県横須賀市に住むAさんは、SNSで「新しく作った通帳やキャッシュカードを送るだけで高収入」といった投稿を見つけました。
そんなに簡単なことでお金がもらえるなら安いものだと思ったAさんは、近所にある銀行Vで口座を開設すると、SNSのメッセージ機能を利用して指示された通り、預金通帳やキャッシュカードを郵送し、報酬として10万円受け取りました。
するとしばらくしてから、Aさんの自宅に神奈川県田浦警察署の警察官がやって来て、Aさんは犯収法違反と詐欺罪の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんの家族は、Aさんの逮捕の知らせを聞いて、弁護士に接見を依頼しました。
Aさんは、接見に訪れた弁護士に、預金通帳を渡しただけで犯罪になるのか相談しました。
(※この事例はフィクションです。)
【犯収法違反】
犯収法という法律名はなかなか耳馴染みのない法律かもしれません。
犯収法は、正式には「犯罪による収益の移転防止に関する法律」という法律であり、犯罪収益移転法とも呼ばれます。
犯収法は、その名前の通り、犯罪による収益を移転させることを防止するための法律です。
犯収法の中には、今回のAさんがしてしまったような、預金通帳等を他人に渡す行為を禁止する
条文があります。
犯収法第28条第2項
相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。
通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。
犯収法第28条第2項にある「前項前段の目的」とは、犯収法第28条第1項の「他人になりすまして特定事業者(第2第2項第1号から第15号まで及び第36号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第2条第2項第1号から第37号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせること」という目的を指しています。
つまり、犯収法第28条第2項前段部分は、預金通帳等を渡す相手が他人になりすましてその預金通帳等を利用することを知っていながら、その相手に預金通帳等を渡した者については、犯収法第28条第1項と同様に処罰するということです。
犯収法第28条第1項では、預金通帳等を受け取った側の処罰を規定しているのですが、その法定刑は「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」されることになっています。
ですから、犯収法第28条第2項前段に当てはまる行為をした場合も、「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」されることになります。
そして、犯収法第28条第2項後段では、相手の目的を知らなかったとしても、正当な理由以外の理由で預金通帳を他人に有償で渡した者について処罰する旨が規定されています。
こちらも法定刑は「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」となっています。
ここで注意すべきなのは、犯収法第28条第2項の前段と後段で、犯収法違反が成立する条件として、預金通帳等を渡すことが有償であったかどうかの違いがあるということです。
相手方が他人になりすまして預金通帳等を利用する目的があったことを知って預金通帳等を渡していた場合(犯収法第28条第2項前段)は、犯収法違反が成立するかどうかに、預金通帳等が渡される時にそれが有償かどうかは関係ありません。
しかし、相手の目的を知らなかったとしても正当な理由以外で預金通帳等を渡した場合(犯収法第28条第2項後段)は、犯収法が成立するには有償で預金通帳等の受け渡しが行われる必要があるのです。
今回のAさんの事例を確認してみましょう。
Aさんが預金通帳等を送った相手の目的を知らなくとも、Aさんは預金通帳等を送った報酬として10万円を受け取っています。
そして、通常、銀行等で口座を開設する際には、他人への口座譲渡等はできない旨を説明されます。
にも関わらず、見ず知らずの人から報酬を得るために預金通帳等を送ってしまうことは、「通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由」とは言い難いでしょう。
こうしたことから、Aさんは犯収法第28条第2項後段に該当し、犯収法違反になると考えられるのです。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部では、預金通帳等の譲渡から発生した今回のような犯収法違反事件についてもご相談を受け付けています。
刑事事件専門の弁護士が、在宅捜査を受けている方についても逮捕されている方についても対応可能なサービスをご用意しています。
まずはお問い合わせください。
次回の記事では今回の事例と詐欺罪について取り上げます。